私は九州の田舎育ち、田畑の風景に取り囲まれた自然豊かな子供時代を過ごしました。しかし、その頃は植物をあえて意識する事もなく、むしろ、都会への憧れからか、自然の豊かさは鬱陶しいものと捉えていました。
美術大学への進学で上京した後、何故か大学生活に慣れるにしたがい植物を意識するようになっていました。大学三年の春、近くを流れる玉川上水の土手で「ミツバツチグリ」と言う黄色の花の野草に出会った瞬間から自然の花が次々と目につく様になりました。「自然」に目覚めた瞬間です。
植物に関わる仕事がしたい
それでも、職業選択においては目標が定まらず、暫く模索の時間が続きました。そんな時期においても植物の側にいることで、そのうち自分の仕事が定まると言う確信のようなものだけはありました。生活の為にアルバイトから始めた植木職が本職となり、造園設計会社に勤めるころになってようやく植物との関わりの道筋が見え始めました。それは大学を卒業して5年程経った頃でした。造園の仕事を通して、植物との関係を続けている限り、生活の保障と夢の実現に近づく事が可能だと思う様になりました。さらに自分の独自の立場に気づいたのは絵を描くことでした。植物を知るために始めた植物スケッチはやがて自然などの自分を取り囲む物を理解する事に広がっていきました。
絵を描くことで広がる世界
よく考えてみると、私の仕事の全ては絵を描く事から始まっています。庭の仕上がりイメージのスケッチは当然ながら、造園の現場でも地面に直接に絵を描いている様なものです。絵の具の代わりに植木や石を使い更に花やなどすべてのものが画材です。この絵は見るだけでなく風を感じさせ、香り、手触り、味わう事すら出来ます。そして更には成長し、変化し、永遠に仕上がらない絵で、絵の中に生きている様なものなのです。