何十年もガーデンデザインをしていると、改めて感じることがあります。人と植物がお互い長く良い関係を続けていくためには、健康で、美しい庭をつくること。そしてメンテナンスにエネルギーをかけ過ぎないこと。私たちが大切にしている庭づくりとその進め方をご紹介したいと思います。
何十年もガーデンデザインをしていると、改めて感じることがあります。人と植物がお互い長く良い関係を続けていくためには、健康で、美しい庭をつくること。そしてメンテナンスにエネルギーをかけ過ぎないこと。私たちが大切にしている庭づくりとその進め方をご紹介したいと思います。
ガーデニングの世界では、植物を愛でるために「美」が求められてきました。そのため、地表から見える部分のデザインや管理が中心。見た目を良くするために枝を切り、草が生えると根から抜く。当たり前にやってしまうこの作業も、繰り返されると植物は次第に生命力を失っていきます。植物が健康で穏やかに成長するためには、まず土中を整える事、そして地表の植物は手入れし過ぎない事がポイント。自然の摂理に素直で、地中も・地表も、健やかな環境であることを大切に。そこにクライアントの思いを重ね、人と植物とが共に心地よく、長く付き合えるデザインをしています。
ご相談を頂くと、まずは敷地がどのような状況かを調査します。大きな視点では、雨水や風の流れなどを読み取るために、地形(川、海、山、地形の傾き、方位など)を見ていきます。より細かな視点では、周囲を歩きながら、その地の水の流れ、土の状況、隣家や樹木の状況などを確認しています。
△隣家、水の流れ、樹木の状況など現状を見ながら、庭が完成した後の理想的な環境をイメージします。
クライアントはどんな暮らしをされているのか、その土地にどんな思いをお持ちなのか。まずはご家族一人一人にポストイットを10枚つづお配りし、書き出された内容をもとに会話を膨らませていきます。見聞きする内容と、私が現地調査で感じ取ったこと。双方の世界観を重ね、おおよそのプランを決めていきます。
△ご家族それぞれの思いを重ねて、スケッチで共有していきます。
プランが決まると、クライアントをお誘いして植木生産者の畑へ。それぞれの樹木の特徴をお伝えしながら、一緒に選びましょう。特に実のなる木を選ぶ時は「キッチンの窓から柿の木が見えたら最高」「ビワを植えたい」など会話が弾み、暮らしのイメージもより膨らんできます。樹木が決まると、より具体的に庭のストーリーを構成していきます。
樹木の決定と前後する形で、現地調査で想定した水の流れをもとに敷地の中に溝を掘り、そこに枝や炭、枯葉を撒いていきます。いずれ樹木がそこに自分の根を絡ませ、自然に柔らかい土を作ってくれるのです。そうなると、地上の空気が風にのり、地中に潜りやすく、酸素や窒素などを供給する。土中の滞りをなくすと同時に、自然が自然に循環していく、この道筋をつくるのです。不思議なことにこの工事が終わると、敷地にパッと霧が晴れたような明るさが出てきます。
△雨水はこの溝に流れ、柔らかくなった地中に広く浸み込んでいきます。庭の水はけが良くなり、植物にも人にも快適な環境になります。
樹木を植える日を境に、敷地の表情や空気は一変します。この日は、これまでクライアントと会話したストーリー、動線、樹木のつながり、全てのことが頭を駆け巡り、フル回転させながら動きます。まずは主役となる高木の配置や向きを決めていきます。不思議と関係者全員が「ここだ!」と感じる場所があるのです。その後も1本1本、庭全体を眺めながら細部に渡って配置や向きをデザインしていきます。
△植え穴も、地中を整えた方法と同じように、枝葉・炭を撒き、空気の層を作っていきます。根が呼吸できる健康な状態になるよう作業をしていきます。
庭を楽しむためには、定期的にメンテナンスが必要です。ご自身でお手入れをされる場合は、その方法がわかる資料をお渡しし、管理をご依頼される場合は定期的に手入れの日程を調整します。
日々のメンテナンスはやりすぎず、気楽にやる事が大切です。切る枝は、普段から風に大きく揺れて台風が来ると折れそうなもの。新しく生えた草も抜かず、風でなびく部分を軽く鎌で払っていくだけで構いません。
▽風の草刈り(根を抜かないメンテナンス)
名前の由来から草はらを風が吹き渡るように新芽の延びた柔らかい草の上部を鎌で軽く刈り払っていく作業です。この様に頻繁に草刈りをしていると草が間延びをせず穏やかな姿になっていきます。山羊や羊が草を食むと美しい草はらが出来上がるのと同じ。強引な草抜きや背丈が伸び切ってから根きわで刈り取ると土壌が痛みやすくなり地表が荒れていきます。「風の草刈り』はあまり体に負担がないので、やり終えた後の軽い疲労感と徐々に美しい草はらが出来てくるのが楽しみになります。
庭づくりは建築と切り離される事が多いのですが、ここ数年大きな変化が生じています。庭を中心に据えた家づくりや、庭と建物が一体となり家づくりを考えるプロジェクトに携わる事が多くなりました。建築家、工務店だけでなく、ガーデンデザイナー、植木職が提案から関わり、協業しながら庭と家を一緒につくっていくのです。その事例(クライアントインタビュー)をご紹介します。
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